プロフィール

出口智広

公立大学法人兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科 准教授
(併任)兵庫県立コウノトリの郷公園 主任研究員 



略歴

北海道大学大学院農学研究科博士課程を修了後、山階鳥類研究所に入所。

アホウドリ回復のための国際チームのメンバーとして小笠原への再導入計画を担当。

同研究所保全研究室長を経て、2019年に兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科准教授に就任。
現在はコウノトリの野生復帰を主題とした希少種保全の教育研究を行なっています。


1973年 札幌市生まれ

1992年 北海道立札幌手稲高校卒業

2004年 北海道大学大学院農学研究科博士課程修了(出身ラボは応用動物学教室)

           博士(農学)の学位取得

2004年 財団法人山階鳥類研究所 入所

2019年 公立大学法人兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科 准教授

           (併任)兵庫県立コウノトリの郷公園 主任研究員

 



専門分野

行動生態学・保全生態学・再導入生物学


好きなこと・もの・アーティスト

泳ぐこと・お酒・サッカー観戦・料理・旅行・映画鑑賞
Julian Schnabel・Leos Carax・Bernardo Bertolucci
Jason Mraz・Keith Jarrett・Bruno Major



これまでの研究内容

   大学院修士課程在籍時は、北大水産学部北洋研究施設において、海洋環境変動に対する高次捕食者の応答に関するテーマに強い興味を持ち、北海道知床半島において、「外洋性の海棲哺乳類であるクラカケアザラシの食性が、主な餌種であったスケトウダラの資源衰退以前の研究結果と比べて、現在どのように変化したか」について調べてきました。

   その後、博士課程では、北大農学部応用動物学教室に籍を移し、「最適な投資配分を図る親の繁殖努力と、自身の生存率を高めようとする子の行動は、変動する環境下においてどのように決定されるか」という、より詳細なテーマを博士論文としました。研究材料は、アザラシから北海道天売島に生息する海鳥のウトウに変更し、海洋環境の年および季節変化が親鳥の繁殖開始時期と給餌努力量に及ぼす影響を明らかにし、これにともなって変化する雛の孵化時期と成長速度が、巣立ち時の日齢と体重の決定にどのように関わるかを明らかにしました(詳細はクリック)。

   学位取得後、山階鳥類研究所の研究員に採用されてからは、絶滅危惧種であるアホウドリを回復させるため、日本・アメリカ・カナダ・オーストラリアの専門家からなる国際チームのメンバーに加わり、小笠原諸島の繁殖地復活の取り組みに従事してきました。この活動の趣旨は、本種が高い生地回帰性を持つことに着目して、噴火の危険性の高い現繁殖地の伊豆鳥島から、安全な小笠原諸島聟島へ若齢の雛を運び、野外で人工飼育し、巣立たせることにより、育った場所へ帰還した個体を核とする繁殖個体群の形成を促すことです。私は、アホウドリが小笠原村の財産として受け入れられる下地を作るべく、地域住民との恊働によってこの活動を進めてきました。また、本活動が他の鳥類の繁殖地形成にも応用できるように、汎用性の高い手法の確立に注力してきました(詳細はクリック)。


   山階鳥類研究所では、鳥類に個体識別用の標識を付け、移動・分散の解明を目的とする調査を1961年から全国各地で実施しており、現在約600万件の標識個体情報を保有しています。私は、この情報を活用し、生態学や保全生物学など、より広い学術分野への貢献を目指し、鳥類の渡りおよび繁殖時期と気候変動の関連性について解析を進めてきました。その例として、東南アジアにある越冬地から繁殖のため日本に渡ってくるツバメ、オオヨシキリ、コムクドリの到着および繁殖時期が、この40年の間で早まっていることを上記の標識個体情報から明らかにしました(詳細はクリック)。

今後の抱負

   小笠原諸島でのアホウドリの活動は、世界的に例のない先駆的かつ大規模なプロジェクトであったにもかかわらず、私は、社会人となって最初の職務で現場責任者を任されるという、極めて希有な機会に恵まれました。そして、この職務に長年取り組んだ経験から、自然環境の保全の実現には、活動の長期的な継続が何よりも大切であり、そのためには地域社会の活性化と後進の育成が不可欠なことを強く実感するようになりました(詳細はクリック)。

   このような経緯から、当大学院では、自身の体験やそこから得た教訓を伝えていくことで、野外調査や保全活動をリードする人材を輩出することを、人生の次の目標にしたいと考えています。小笠原での取り組みは、学術的には再導入と呼ばれていますが、対象を生物一般に広げると、最終目標の設定の曖昧だったり、最適な保全手法の検討が足りないケースが大半を占めています。ゆえに、事後モニタリングの結果公表が少なく、成果の評価が後付けになることが多いため、科学としての信頼性が問われてきた分野です。

   そこで、今後の主な対象であるコウノトリについては、学術的な信頼に応えられる研究成果を学生と共に発表して行きたいと考えています。最後に、当大学院は、地形、生態系、人間社会の連関を地域と言う共通の空間スケールの中で捉えることを目指しています。社会人の方も積極的に受け入れていますので、学生募集の際には皆様のご応募をお待ちしております。